論文を先に書く:実験の意味が明確になってますか?
研究室で実践するべきOUTLINE法の解説
私達の研究室ではOUTLINE法で実験を進めるように、すなわち、論文を先に書いてから実験するように指導していますが、実際にそれを実践できている方は少ないようです。実験を始める前、あるいは実験の途中から「論文の形」を作り、研究の目的、必要なデータ、足りない実験、結論の限界を見えるようにするのはとても大切ですし、実験が終わった時点で論文が完成しているという形で、卒論、修論に取り組むことこそが、みなさんが社会に出る前に身につけるととても役立つ「仕事の進め方」につながるように思いますので、今一度、この記事を読んで実践してみてください!
1. この記事で伝えたいこと
研究を始めたばかりのとき、多くの人は次のように考えやすい。
まず実験をたくさんする
↓
データがそろう
↓
最後に論文を書くこれは一見自然に見える。しかし実際には、この順番だけで進めると、次の問題が起こりやすい。
データは増えたが、何を主張したい研究なのかわからない。
重要そうな結果はあるが、必要な対照実験が足りない。
似た図が何枚もある一方で、結論を支える決定的な図がない。
実験の目的が「次に何か測ること」になり、仮説を検証する形になっていない。
論文を書き始めてから、研究の論理の穴に気づく。
George M. Whitesides 教授の短いエッセイ “Whitesides’ Group: Writing a Paper” は、この問題に対して非常に実践的な考え方を示している。要点は、論文は完成した研究をしまっておく箱ではなく、進行中の研究を設計するための道具でもある、ということである。
ここでいう「論文を先に書く」とは、結果を先に決めつけることではない。まして、都合のよいストーリーにデータを合わせることでもない。正しくは、次のような作業である。
仮説を書く
↓
その仮説が正しければ、どんな図が必要かを書く
↓
その図を作るために、どんな実験・対照・解析が必要かを書く
↓
実験結果に応じて、仮説・図・結論を書き直すつまり、先に書くのは「完成原稿」ではなく、「研究の設計図としての論文アウトライン」である。
2. 原典:Whitesides の “Writing a Paper” の考え方
原典は以下のエッセイである。
George M. Whitesides, “Whitesides’ Group: Writing a Paper,” Advanced Materials 16, 1375-1377 (2004). DOI: 10.1002/adma.200400767
Whitesides Research Group の掲載ページ:Whitesides’ Group: Writing a Paper
この文章は、もともと Whitesides 教授が研究室メンバー向けに作ったハンドアウトをもとにしている。短い文章だが、研究を進めるときの考え方として非常に重要な点が含まれている。
2.1 論文は「仮説・データ・結論の整理」である
Whitesides の中心的な考えは、科学論文は単なる文章ではなく、仮説、データ、結論を整理して読者に教えるための構造だという点である。
実験ノートには、研究の時間順の記録が残る。これは非常に大切である。しかし、論文は時間順の日記ではない。論文で読者が知りたいのは、次のことである。
何が未解決だったのか。
何を明らかにしようとしたのか。
どの仮説を検証したのか。
どのデータがその仮説を支えているのか。
その結果から、どこまで言えるのか。
その結果は、分野にとってなぜ重要なのか。
したがって、論文を書くことは、研究を「読者が理解できる論理」に並べ替える作業である。
2.2 良いアウトラインは、良い研究計画でもある
Whitesides の文章で特に重要なのは、論文アウトラインを研究計画として使う点である。アウトラインというと、多くの人は次のような見出しだけを想像する。
1. Introduction
2. Results and Discussion
3. Conclusion
4. Experimentalしかし、ここで必要なのは見出しだけではない。論文アウトラインには、仮説、必要な図、表、スキーム、対照実験、まだ足りないデータ、予想される解釈まで入れる。
たとえば、材料化学や有機材料の研究であれば、次のように書く。
仮タイトル:
〇〇構造をもつ分子集合体は、界面での電子移動を促進する
主張したいこと:
分子設計Aにより、従来系よりも〇〇が改善する。
Figure 1:
分子設計と合成スキーム。既知系との違いを示す。
Figure 2:
構造・組成・集合状態の確認。NMR、MS、UV-vis、DLS、TEMなど。
Figure 3:
目的機能の比較。設計A、対照B、対照Cを同条件で比較する。
Figure 4:
なぜ改善したのかを示す機構的な実験。
Figure 5:
再現性、安定性、適用範囲、限界。
足りない実験:
対照Bの測定、光なし条件、基質なし条件、繰り返し回数、統計処理。このように書いてみると、次にやるべき実験が自然に見える。逆に、図に入らない実験、主張を支えない実験、解釈に使えない実験も見えてくる。
2.3 本文を書く前に、図とデータの並びを決める
Whitesides は、文章よりも先にデータの整理を重視する。論文の説得力は、きれいな文章だけで生まれるのではない。読者を納得させるのは、仮説、データ、図、対照実験、結論のつながりである。
学生にとって重要なのは、次の順番で考えることである。
文章をうまく書くよりも前に、
どの図が、どの結論を支えるのかをはっきりさせることである。
図を先に作ると、次の問いに答えやすくなる。
この図から読者に何をわかってほしいのか。
その結論は本当にこの図から言えるのか。
対照実験は足りているか。
解析方法は妥当か。
この図は主張に必要か、それとも補足情報でよいか。
この図がなくても論文の主張は成立するか。
図のタイトルやキャプションも、早い段階で仮に書くとよい。
悪い例:
Figure 3. Photocatalytic activity.
良い例:
Figure 3. Fullerene-modified CNTs show higher photocatalytic H2 evolution than unmodified CNTs under identical Pt-loading conditions.良い例では、図が何を示すためのものかが明確である。実際の結果がこの文に合わなければ、図、解釈、あるいは研究の中心主張を修正する必要がある。
3. 「論文を先に書く」は、結果を決めつけることではない
この方法で最も誤解されやすいのは、「まだ実験していないのに結論を書くのは危険ではないか」という点である。その心配は正しい。だからこそ、区別が必要である。
3.1 よい先取り:仮説、必要データ、判断基準を書く
よい先取りは、次のような書き方である。
仮説:
分子Aの導入により、界面での電荷分離が改善する。
この仮説が正しければ期待される結果:
時間分解測定で寿命が長くなる。
光電流が対照系より増える。
消光実験で電子移動の寄与が見える。
この仮説が間違っている可能性:
単に吸収量が増えただけかもしれない。
触媒量や粒径の違いが原因かもしれない。
分散性の違いが見かけの活性差を生んでいるかもしれない。
必要な対照:
分子Aなし、CNTなし、Ptなし、光なし、基質なし、同一吸光度条件、同一Pt量条件。これは、結果を決めつけているのではない。むしろ、どの結果が出ればどの解釈が可能で、どの結果が出れば仮説を修正すべきかを先に明確にしている。
3.2 悪い先取り:望む結論にデータを合わせる
悪い先取りは、次のような進め方である。
この結論で論文にしたい
↓
都合のよいデータだけ選ぶ
↓
合わないデータは見なかったことにする
↓
対照実験を避けるこれは科学ではない。論文を先に書く方法は、この危険を減らすために使うべきである。先に仮説と判断基準を書いておけば、あとで結果を見てから都合よく説明を変えることを避けやすくなる。
4. 学生が使いやすい実践フロー
ここでは、研究室で実際に使える形にしておく。
Step 1:1文で主張を書く
まず、研究の中心を1文で書く。
本研究は、〇〇を用いることで、□□の問題を解決できることを示す。または、
本研究は、〇〇が□□に影響する主要因であることを明らかにする。この1文が書けない場合、まだ研究が悪いという意味ではない。むしろ、何を明らかにしたいのかを考える段階にいるということである。
よくない例:
〇〇材料を合成して評価した。これは作業の説明であって、研究の主張ではない。
よい例:
側鎖に〇〇を導入した高分子は、凝集構造を制御することで、薄膜中の電荷輸送を改善する。こちらは、設計、現象、機能のつながりがある。
Step 2:読者にとっての「なぜ重要か」を書く
次に、読者がなぜこの研究を読むべきかを書く。
背景:
現在、□□は重要だが、〇〇が制限要因になっている。
未解決点:
既存研究では、△△は示されているが、□□との関係は十分にわかっていない。
本研究の役割:
そこで本研究では、〇〇を制御した系を用いて、□□との関係を検証する。
ここで重要なのは、背景を長く書きすぎないことである。読者は「分野の全歴史」を読みたいのではない。読者が知りたいのは、「この論文で埋める穴は何か」である。
Step 3:仮の図リストを作る
次に、論文に必要な図を先に並べる。
Figure 1:研究の設計思想と分子・材料の構造
Figure 2:合成・構造・形態の確認
Figure 3:主機能の比較
Figure 4:対照実験による原因の切り分け
Figure 5:機構、安定性、一般性、限界研究分野によって図の種類は変わるが、基本は同じである。
すべての研究が5枚の図になるわけではない。しかし、このような役割で考えると、図の不足や重複に気づきやすい。
Step 4:各図に「結論」と「必要実験」を書く
各図について、次の表を作る。
この表を作ると、実験の優先順位がはっきりする。次にやる実験は「なんとなく面白そうな測定」ではなく、「論文の論理に空いている穴を埋める実験」になる。
Step 5:研究室内でアウトラインを見せる
アウトラインは、ひとりで完成させるものではない。早い段階で指導教員、先輩、共同研究者に見せる。研究室のRS(リサーチセミナー)では、このアウトラインのディスカッションを非常に大切にしている。
見てもらうべき点は、文章の上手さではない。
主張は1つに絞れているか。
その主張は本当に重要か。
図の順番は自然か。
対照実験は足りているか。
そのデータから、その結論まで言えるか。
もっと簡単な説明や別解釈はないか。
研究として新しい点はどこか。
この段階で厳しいコメントが出るのはよいことである。全文を書いてから論理が崩れるより、アウトラインの段階で直す方がずっと早い。
Step 6:実験結果に合わせて、何度も書き直す
論文を先に書く方法では、アウトラインは固定しない。実験結果に応じて何度も変える。
予想通りの結果が出た
→ 仮説を強める。対照実験で確認する。
予想と違う結果が出た
→ 仮説を修正する。新しい説明を考える。
結果が曖昧だった
→ 判断できる実験条件を設計し直す。
対照実験で主張が崩れた
→ 早く気づけたことをよいこととして、研究の問いを立て直す。研究では、予想と違う結果が出ることは普通である。重要なのは、違う結果を無理に隠すことではなく、その結果によって何がわかったのかを考えることである。
5. 研究室で使う「アウトラインチェックシート」
以下は、みなさん自身が毎週または隔週で更新できる簡易テンプレートである。
このシートを使うときは、完璧な文章を書こうとしなくてよい。箇条書きで十分である。重要なのは、頭の中にある曖昧な考えを外に出し、他の人がコメントできる形にすることである。なお、研究室のみなさんには、このmdファイルとPDFファイルを配布しますので、利用してください。
6. 補足する考え方
Whitesides の考え方は単独で有用だが、他の研究者や編集者の発信と合わせると、より理解しやすくなる。
6.1 Mensh and Kording:論文は中心貢献を1つに絞る
Brett Mensh と Konrad Kording の “Ten simple rules for structuring papers” は、論文構成を考えるうえで非常に実用的である。
Brett Mensh and Konrad Kording, “Ten simple rules for structuring papers,” PLOS Computational Biology 13, e1005619 (2017). DOI: 10.1371/journal.pcbi.1005619
この論文で特に重要なのは、論文の中心貢献を1つに絞るという考え方である。研究には多くのデータが含まれるが、読者が最後に覚えるメッセージは限られている。したがって、タイトル、アブストラクト、図、結果、考察は、できるだけ同じ中心主張に向かって並べる。
また、同論文は Context-Content-Conclusion、つまり「文脈、内容、結論」の流れを強調している。これは論文全体にも、段落にも、図にも使える。
Context:なぜこの話をするのか
Content:何をしたか、何が得られたか
Conclusion:そこから何が言えるか論文を先に書くときも、この3点を各図・各段落に入れておくと、読者が迷いにくい。
6.2 Nature Portfolio:短く、焦点の合ったメッセージにする
Nature Portfolio の著者向けページでは、投稿先の読者、分量、図の作り方、明瞭な表現を意識することが勧められている。
Nature Portfolio, “How to write your paper”: https://www.nature.com/nature-portfolio/for-authors/write
ここから学生が学ぶべき点は、論文は「詳しく書けばよい」ものではないということである。重要なのは、読者が理解できる形で、焦点の合ったメッセージを示すことである。
実験をたくさんしたからといって、すべてを本文に入れる必要はない。主張を支える主要な図を本文に置き、詳細な条件、追加データ、補助的な検討は Supporting Information に分ける。何を本文に置き、何を補足に回すかを考えることも、論文先行の重要な作業である。
6.3 Registered Reports:結果を見る前に問いと方法を評価する
Registered Reports は、結果がわかる前に研究課題と方法を査読する出版形式である。
Center for Open Science, “Registered Reports”: https://www.cos.io/initiatives/registered-reports
この形式は、主に心理学、医学、生命科学、社会科学などで広がっている。材料化学や合成化学の通常の論文とはそのまま同じではないが、考え方は参考になる。
重要なのは、結果が出る前に次を明確にすることである。
何を問うのか。
どの方法で答えるのか。
どの結果なら仮説を支持すると判断するのか。
どの結果なら仮説を修正するのか。
成功・失敗に関係なく、結果をどう報告するのか。
これは、論文を先に書く方法の倫理的な支えにもなる。先に書くことは、結果を操作するためではなく、問いと方法を透明にするために使うべきである。
6.4 Gopen and Swan:書き方は考え方を変える
George Gopen と Judith Swan の “The Science of Scientific Writing” は、読者の期待に沿って文章を組み立てる重要性を説明している。
George D. Gopen and Judith A. Swan, “The Science of Scientific Writing,” American Scientist 78, 550-558 (1990). JSTOR: https://www.jstor.org/stable/29774235
American Scientist 掲載ページ:The Science of Scientific Writing
この考え方は、論文先行法と相性がよい。なぜなら、アウトラインを書く段階で「読者はどこで迷うか」「どの順番なら自然に理解できるか」を考えるからである。
特に重要なのは、読者に古い情報から新しい情報へ進ませることである。
既に説明したこと
↓
新しいデータ
↓
そこから言えること研究者本人はすべての背景を知っているため、説明を飛ばしても理解できる。しかし読者はそうではない。論文を先に書くと、研究者の頭の中ではつながっているが、読者には見えない論理の穴に気づきやすくなる。
6.5 Ken Caldeira:仮のアブストラクトと図を早く作る
気候科学者 Ken Caldeira は、研究論文を書く手順として、早い段階で仮のアブストラクト、導入、粗い図を作ることを勧めている。
Ken Caldeira, “Steps to writing a scientific paper based on model results”: https://kencaldeira.com/2018/05/steps-to-writing-a-scientific-paper-based-on-model-results/
特に参考になるのは、粗い図と粗い文章を早く紙面に置くという考え方である。白紙から完璧な論文を書くのは難しい。しかし、粗い図、仮のキャプション、仮の結論があれば、そこから改善できる。
これは学生にも使いやすい。最初から美しい図を作る必要はない。手書きの図、仮の軸、仮の表でもよい。大切なのは、その図が何を示すべきかを先に考えることである。
7. よくある失敗と対策
7.1 データを集めること自体が目的になる
失敗例:
とりあえず測れるものを測る。対策:
この測定は、どの図のどの結論を支えるのかを書く。測定する前に、次の1文を埋める。
この実験は、Fig. __ で「___」を示すために行う。この文が書けない場合、その実験の優先順位は低いかもしれない。
7.2 図は多いが、結論が弱い
失敗例:
NMR、IR、UV-vis、PL、TEM、DLS、XPS、XRD、CVを全部測った。対策:
各測定がどの主張を支えるのかを表にする。測定数が多いことと、論文が強いことは同じではない。必要なのは、主張を支える測定である。
7.3 対照実験が後回しになる
失敗例:
まず良い結果を出してから、対照実験を考える。対策:
主結果の前に、必要な対照をアウトラインに入れる。対照実験は、論文の説得力を決める。対照がないと、読者は別の説明を考える。自分で先に別の説明を考え、それを消す実験を設計する。
7.4 きれいなストーリーを守りすぎる
失敗例:
予想と違う結果を、無理に当初の仮説に合わせる。対策:
結果に合わせて、仮説と中心主張を更新する。論文先行法では、最初のアウトラインは仮説であり、契約書ではない。データが違う方向を示したら、研究の問いを変える。良い研究は、最初の予想を守ることではなく、データからより正しい理解に近づくことで生まれる。
7.5 文章を沢山書きすぎて、データの論理が弱い
失敗例:
本文を長く書いたが、図の順番と結論が合っていない。対策:
まず図、キャプション、各段落の結論文を作る。
本文の肉付けは最後でよい。文章は重要だが、研究の骨格は図と論理である。本文の美しさより先に、図の順番、対照実験、結論の範囲を固める。
8. 自分で進捗管理するうえでの運用案
8.1 研究開始時
新しいテーマを始めるときは、次の1ページを作る。
仮タイトル
1文の中心主張
背景と未解決点
仮説
図のリスト
最初に必要な3つの実験
失敗しそうな点
関連する主要文献
この時点では、間違っていてよい。むしろ、早く間違いを見つけるために書く。
8.2 週報(隔週でも良い)
週報では、単に「今週やった実験」を並べるだけでなく、論文アウトラインのどこが進んだかを書く。
今週の実験:
Fig. 3 の対照Bを測定した。
わかったこと:
設計Aの効果は見えるが、差は当初予想より小さい。
アウトラインの変更:
中心主張を「大幅な性能向上」から「界面構造の違いによる再現性の改善」に修正する可能性がある。
次に必要な実験:
同一吸光度条件での比較、Pt量の定量、繰り返し測定。この形式にすると、研究報告が論文作成に直接つながる。
なお、私達の研究室では週報の提出を求めていませんが、自分で進捗管理をするために、毎週、実験ノートにこれをメモると良いと思います。
会社に行ったら、週報は当たり前ですし、多くの大学の研究室で、週報が義務となっています。
(進捗管理は、週報、日報でするもので、ゼミの目的はあくまでも情報共有とディスカッションなので間違えてはいけない。ゼミで発表していることと、卒論・修論へ向けた準備が着実に進んでいることとは全く関係がない)
8.3 中間発表前
中間発表は、論文アウトラインを点検するよい機会である。スライドは論文の図とほぼ同じ役割をもつ。
発表前に確認する。
研究の中心主張は1文で言えるか。
各スライドのタイトルは結論になっているか。
対照実験が足りないスライドはないか。
まだ言いすぎている結論はないか。
最後に「次に何をすれば論文に近づくか」が見えるか。
8.4 論文執筆前
本文を書き始める前に、次をそろえる。
仮タイトル
アブストラクトの箇条書き
Introduction の最後の段落の下書き
Figure 1 から最後の図までの順番
各図の結論文
対照実験のリスト
Supporting Information に回すデータ
まだ言えないこと、限界、未確認点
ここまでできていれば、本文執筆はかなり楽になる。
9. まとめ
「論文を先に書く」とは、完成した結論を先に作ることではない。研究の問い、仮説、必要な図、対照実験、判断基準を先に見える形にすることである。
この方法を使うと、研究は次のように変わる。
みなさんにとって大切なのは、最初から完璧な論文を書くことではない。粗いアウトラインでよい。仮の図でよい。箇条書きでよい。重要なのは、研究を「作業の集まり」ではなく、「読者に伝えるべき論理」として早い段階から見ることである。
実験は、論文を書くためだけに行うものではない。しかし、良い論文の形を先に考えることで、良い実験を設計しやすくなる。これが、Whitesides のエッセイから学べる最も重要な点である。
参考文献など
George M. Whitesides, “Whitesides’ Group: Writing a Paper,” Advanced Materials 16, 1375-1377 (2004). DOI: 10.1002/adma.200400767.
研究を進めながら論文アウトラインを作り直す考え方の原典。
Whitesides Research Group, “Whitesides’ Group: Writing a Paper.”
https://www.gmwgroup.harvard.edu/publications/whitesides-group-writing-paper
George M. Whitesides, “The Art of Scientific Writing,” Advanced Materials 17, 775-776 (2005).
https://www.gmwgroup.harvard.edu/publications/art-scientific-writing
Brett Mensh and Konrad Kording, “Ten simple rules for structuring papers,” PLOS Computational Biology 13, e1005619 (2017). DOI: 10.1371/journal.pcbi.1005619.
中心貢献、Context-Content-Conclusion、図と結果の論理構成を学ぶのに有用。
Nature Portfolio, “How to write your paper.”
https://www.nature.com/nature-portfolio/for-authors/write
読者、投稿先、明瞭な表現、焦点の合ったメッセージ、図と補足情報の使い分けについての著者向けガイド。
Center for Open Science, “Registered Reports.”
https://www.cos.io/initiatives/registered-reports
結果が出る前に問いと方法を評価する出版形式。論文先行法の倫理的な考え方を補強する。
DARPA, “The Heilmeier Catechism.”
https://www.darpa.mil/about/heilmeier-catechism
研究計画を短く、具体的に点検するための質問集。
George D. Gopen and Judith A. Swan, “The Science of Scientific Writing,” American Scientist 78, 550-558 (1990). JSTOR: https://www.jstor.org/stable/29774235.
読者の期待に沿って情報を配置する考え方。論文の論理の穴を見つける助けになる。
American Scientist, “The Science of Scientific Writing.”
https://www.americanscientist.org/blog/the-long-view/the-science-of-scientific-writing
Ken Caldeira, “Steps to writing a scientific paper based on model results.”
https://kencaldeira.com/2018/05/steps-to-writing-a-scientific-paper-based-on-model-results/
仮のアブストラクト、導入、粗い図を早く作り、図を中心に論文を改善していく実践例。
PLOS SciComm, “A Brief Guide To Writing Your First Scientific Manuscript.”
https://scicomm.plos.org/2018/03/07/a-brief-guide-to-writing-your-first-scientific-manuscript/
初めて論文を書く研究者向けの実践的ガイド。図表とキャプションを早く整える考え方が参考になる。
Nature Biomedical Engineering, “Storytelling in research,” Nature Biomedical Engineering 2, 53 (2018). DOI: 10.1038/s41551-018-0202-5.
研究成果を、背景、発見、意味が伝わる形で構成することの重要性を示す編集記事。








