Abstract: Azeotropes are constant-boiling mixtures that cannot be further separated by simple distillation. This article clarifies the definition and significance of azeotropes, corrects common misconceptions about mixed solvent evaporation, and explores practical examples of using azeotropic distillation to remove 2-aminoethanol (MEA) and ethylenediamine (EDA) in organic synthesis.
1. 共沸の定義と意味
共沸(きょうふつ)とは、2種類以上の液体からなる混合物で、蒸留してもその組成が変化しない一定比率の混合物を指します 。沸騰時に蒸気中の組成比が沸騰前の液体組成比と等しくなるため、通常の蒸留ではその比率を超えて分離できません 。この性質から一定沸点混合物とも呼ばれ、蒸留による分離操作において重要な概念です。
理想的な溶液はラウールの法則に従い、各成分分子間の相互引力が均一と仮定されます。しかし実際の混合系では分子間相互作用の差異により気液平衡がラウールの法則から外れることがあります 。共沸はまさにそのような非理想溶液で顕著に現れる現象で、十分な偏差がある場合に初めて形成されます 。具体的には、混合物の全圧-組成曲線に極大または極小が生じ、その組成点で液相と気相の組成が一致すると共沸となります 。
相互作用が弱く蒸気圧が理想より高くなる正の偏差系では、純物質より低い沸点を示す最低沸点共沸(正の共沸)が発生します 。有名な例としてエタノールと水の混合物があります。エタノール(沸点78.4 ℃)と水(100 ℃)は、質量比95.63%:4.37%で共沸を形成し、両者の沸点より低い78.2 ℃で沸騰します 。一方、分子間の引力が強く蒸気圧が低くなる負の偏差系では、純物質より高い沸点の最高沸点共沸(負の共沸)が形成されます 。例えば硝酸と水は約68%:32%(質量比)で共沸を作り、393.5 ℃もの高沸点混合物となります 。また塩酸(HClと水)は20.2%の塩化水素と79.8%の水からなる共沸混合物を形成し、塩化水素単独(–85 ℃)や水(100 ℃)よりも高い約110 ℃で沸騰します 。このように、共沸は混合物の偏差によって沸点が極端に上下し、蒸留で組成が変えられない特殊な平衡状態と言えます。
2. 共沸を形成する組み合わせ・しない組み合わせの例
共沸を形成する代表的な組み合わせには、前述したエタノール/水(正の共沸) や塩酸(水+HCl)(負の共沸) のほか、クロロホルム/水(2層に分かれる不均一共沸で53.3 ℃沸点)などがあります 。クロロホルムと水は互いにわずかしか溶解しませんが、両液相を一緒に沸騰させると各層の比率に関係なく一定組成(蒸気中97%クロロホルム:3%水)の蒸気を発生し、常圧で53.3 ℃という低温で共沸します 。この蒸気を冷却すると再び2層に分かれ、凝縮物中のクロロホルム:水の比も一定になります 。このような不均一系では共沸を利用して有機溶媒と水を同時に留去する分離操作(例:トルエンと水の共沸による乾燥など)がよく使われます。
一方で、どの割合でも共沸を形成しない組み合わせも存在します。これらは非共沸混合物と呼ばれ、混合物中の相互作用がほぼ理想的で沸点曲線に極値を持たない系です 。典型例としてn-ヘキサン/ n-ヘプタンがあります。両者は化学的に性質が類似しており、ラウールの法則に近い理想混合物を形成するため全組成で滑らかな蒸気圧曲線を示し、共沸は生じません 。同様にベンゼン/トルエンやオクタン/ノナンなど沸点や極性が近いペアは共沸を作らず、組成に応じて徐々に蒸気の比が変化していくため、理論的には完全に分留可能です。非共沸系でも沸点差が小さい場合は分離に多段の蒸留が必要ですが、明確な共沸点が存在しないため繰り返し精留すれば純物質に近づけることができます 。
3. 誤解してない?混合溶媒の蒸発≠共沸
混合溶媒を加熱した際、「低沸点成分だけが先に蒸発し、高沸点成分は後から蒸発する」といったイメージを持つ学生も多いでしょう。しかし実際には、混合物を沸騰させると常に両成分が一緒に蒸気相へ移行します 。蒸気中には低沸点成分の方が高い割合で含まれますが、高沸点成分もある程度揮発しており、どちらか一方だけが単独で蒸発することはありません 。例えばエタノールと水の混合液を蒸留すると、蒸気は液よりエタノールの割合が高くなります。したがって最初に得られる留出液(蒸留液)は元の液よりエタノール豊富ですが、それでも純粋なエタノールには達しません 。50:50のエタノール/水を1回蒸留しても留出液は約80:20になり、さらに蒸留を繰り返すごとに90:10、95:5…と徐々にエタノール富化しますが、95.5%:4.5%付近(共沸組成)で分離が頭打ちになるのです 。これがエタノール/水系の共沸点であり、それ以上の純度のエタノールは単純蒸留では得られません 。逆に言えば、共沸点未満の濃度であれば徐々に濃縮は可能なので、「ある程度以上の濃度でないと蒸留できない」という心配は誤解です 。ラウールの法則に基づき、たとえ水にごく少量のエタノールが含まれる場合でも気相にはエタノールが蒸発し、少しずつ留出液に移っていきます 。重要なのは、混合溶媒の蒸発がすなわち共沸ではないという点です。共沸とは特定組成で液相=気相となる現象であり、通常の混合物はそうでない限り蒸発につれて液組成が変化します。混合溶媒を蒸発させたときに両成分が出てくるのは単に気液平衡の結果であり、それ自体は共沸現象ではありません。科学では言葉の定義、使い方がとても大切ですから、この違いを理解し、正しく共沸という言葉を使いましょう。
混合溶媒を加熱した際、「低沸点成分だけが先に蒸発し、高沸点成分は後から蒸発する」といったイメージを持つ学生も多いでしょう。しかし実際には、混合物を沸騰させると常に両成分が一緒に蒸気相へ移行します 。蒸気中には低沸点成分の方が高い割合で含まれますが、高沸点成分もある程度揮発しており、どちらか一方だけが単独で蒸発することはありません 。例えばエタノールと水の混合液を蒸留すると、蒸気は液よりエタノールの割合が高くなります。したがって最初に得られる留出液(蒸留液)は元の液よりエタノール豊富ですが、それでも純粋なエタノールには達しません 。50:50のエタノール/水を1回蒸留しても留出液は約80:20になり、さらに蒸留を繰り返すごとに90:10、95:5…と徐々にエタノール富化しますが、95.5%:4.5%付近(共沸組成)で分離が頭打ちになるのです 。これがエタノール/水系の共沸点であり、それ以上の純度のエタノールは単純蒸留では得られません 。逆に言えば、共沸点未満の濃度であれば徐々に濃縮は可能なので、「ある程度以上の濃度でないと蒸留できない」という心配は誤解です 。ラウールの法則に基づき、たとえ水にごく少量のエタノールが含まれる場合でも気相にはエタノールが蒸発し、少しずつ留出液に移っていきます 。重要なのは、混合溶媒の蒸発がすなわち共沸ではないという点です。共沸とは特定組成で液相=気相となる現象であり、通常の混合物はそうでない限り蒸発につれて液組成が変化します。混合溶媒を蒸発させたときに両成分が出てくるのは単に気液平衡の結果であり、それ自体は共沸現象ではありません。科学では言葉の定義や使い方がとても大切ですから、この違いを理解し、「共沸=どんな混合物でも一緒に蒸発すること」ではなく、「特定比率で蒸発・凝縮しても組成が変化しない特殊な混合物」であることを強調する場合にのみ使うように気をつけてください。
4. MEA・EDAの共沸を利用した除去法の具体例
有機合成の実験では、高沸点の溶媒や試薬を反応後に除去する必要があります。2-アミノエタノール(MEA)やエチレンジアミン(EDA)は沸点がそれぞれ約170 ℃・116 ℃と高く、水や有機溶媒に溶けやすい極性物質です 。これらは反応媒体や試薬(塩基、配位子など)として用いられますが、反応後に残留すると後工程や生成物精製の妨げになります。しかし直接加熱して蒸留・乾固させようとしても、沸点が高いため基質を分解させたり真空下でも時間がかかったりすることがあります 。もしこれらを共沸蒸留で除去できるでしょうか?もし、適切な共沸形成相手(エントレーナー)を見つけることができれば、それを加えることで、MEAやEDAを低い温度で揮発しやすい混合物に変え、効率よく系外に留去できます 。
EDAの具体例として、PAMAMデンドリマー合成における除去手順を紹介します。デンドリマー合成では、末端エステル基に過剰のEDAを反応させてアミドアミンを形成するステップがありますが、反応後に残存EDAを完全に除去することが極めて重要です。残留したEDAは次の工程で副反応を引き起こし、目的物の世代構造を乱してしまうからです 。この除去にはメタノール:トルエン=1:9の混合溶媒での共沸蒸留が有効でした 。具体的には、反応溶液にトルエンと少量のメタノールを加えて減圧下で蒸留し、留去液とともにEDAを系外に追い出します 。残留物に再びトルエン/メタノールを加えて蒸留する操作を繰り返し行うことで、EDAと溶媒を段階的に除去します(実際の報告ではこの操作を7回繰り返し、EDAを完全に除去しています )。最後はメタノールを加えてトルエンを共沸留させることで、系内に高沸点成分を残さずすべて飛ばしきることができます 。この方法により、反応残渣として目的のデンドリマーのみが高純度で得られています 。
MEA(モノエタノールアミン)についても、共沸を利用した除去が可能です。MEAは極めて水に溶けやすい一方で有機溶媒(エーテル類・ヘプタン等)には不溶ですが 、ある種の芳香族溶媒とは強い相互作用により共沸混合物を形成します 。文献によれば、MEAはアニリン、アニソール、ジブチルエーテル、エチルベンゼン、メシチレン、キシレンなど多くの有機溶媒と共沸を作ることが報告されています 。例えばMEAとキシレン(bp約140 ℃)は共沸混合物を形成し、MEA単独より低い温度で共沸留可能です。この性質を利用し、反応後の残留MEAに高沸点の芳香族炭化水素を加えて蒸留することで、MEAを共沸相として留去できます。実際に、PAMAMデンドリマーの合成において、乾燥トルエンとメタノールを添加して共沸減圧蒸留を行い、MEAを効率よく除去した例もあります(トルエン単独ではMEAと相溶しにくいため、少量のメタノールを共存させて混和性を高める工夫が報告されています )。EDAに比べて沸点差が大きいため、効率は悪いだろうと思いますが、メタノールの量を多めにするなどの工夫があるようです。
高口コメント>このメタノールを多めに入れるのは、おそらく、下に記載してある、負共沸と関係しています。MEAと水の水素結合を切って、MEAをできるだけ低い温度で取り除きたいというアイデアなのかな?
また、MEAは水蒸気蒸留(Steam distillation)の考え方で除去することも可能です。水とMEAは完全に混和しますが、一緒に加熱するとMEAも水とともに揮発しやすくなります。高沸点の有機化合物を水と共蒸留する手法は古典的ですが、MEAについても水蒸気と共に留去することで実質的に系から追い出すことができます(ただしMEA-水系は最大沸点の負共沸を作るため常圧ではかえって沸点が上がる点に留意が必要です 。減圧下や大量の水とともに行うことでMEA濃度を下げ、蒸留温度を下げる工夫が考えられます)。総じて、MEAやEDAのような高沸点・高極性の化合物は、相補的な溶媒との共沸現象を利用することで効果的に除去でき、実験終了後の後処理が格段に容易になります。
以上、共沸の基礎から応用例まで概説しました。共沸の原理を正しく理解し活用することで、実験の精製操作を合理化できる場合があります。特に本稿で紹介したMEAやEDAのように扱いにくい高沸点化合物については、共沸現象を上手に利用した除去法を検討してみる価値があるでしょう。正確な知識に基づいて適切な溶媒系を選べば、大学院レベルの有機合成実験でも共沸蒸留は強力なツールとなり得ます。今後も関連文献に目を通し、最新の手法やエントレーナーに関する知見をアップデートしていくことが大切です。